※術師4人が小学3年ぐらいのときの小話です

 

◆サダカと父とカケルと父◆

 

「やる気が無いのか、サダカ」

静かな部屋にサダカと父が2人。
父はサダカを睨みながら、呆れたような声で呟く。

「うまく出来たと……思うけど」

サダカはうつむいたまま、不安を含んだ声で答える。

「あの程度の力でか?
それで出来ていると思うならば、すぐに考えを改めろ。
やる気が無い事ぐらい、見れば分かる。いい加減な気持ちで取組むな」

「…………」

「返事をしろ」

「……はい」

「お前は竜壬家の人間だという自覚が足りん。
いつまでそうやってくだらない態度を取り続けるつもりだ」

「…………」

「答えろ」

「……やることは……やってるし」

「お前は目先の楽な事ばかりに気を取られ、
大切な事がなんなのか、まるで分かっていない」

「俺も……頑張ってるよ……」

「何度も私の言いつけを破り、やるべきことから
逃げているお前の、どこが頑張っているというんだ。
いつまでも甘えた態度が通用すると思うな」

父は冷たい目でサダカを見た後、その場を立ち去っていった。

「…………」

 

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父に叱られたサダカは家にいたくなくて、目的も無く近所をうろつく。
日が暮れ始め、辺りは夕日で赤く染まっていた。

「俺だって、ホントに頑張ってるのに……」

(出来てもそれ以上、きりがないぐらいもっともっと上を目指せって言われて……)

(もう嫌だ……)

「お、竜壬んとこのガキじゃねえか」

「…………っ」

突然声をかけられて驚くサダカ。
その声の主は数多家に仕える式の呂ヶ白のものだった。
隣には友達の数多カケルの父もいた。

「こら呂ヶ白、言葉が悪いよ。
サダカくん、どうしたのかな? 家に帰る途中?」

彼はニコニコしながらサダカに近づく。

「…………はい」

「……」

少しの沈黙の後、カケルの父はサダカに優しく笑いかけて喋りだす。

「そうだ、サダカくん。今日うちで晩御飯を一緒に食べないかい?」

「……え?」

「ほら、大勢の方が楽しいし、きっとカケルも喜ぶだろうし」

「“人がいっぱいだと楽しいね、お父さん”……なんて、
カケルが私に笑いかけてくれるだろうなあ」

「まったく、おめえはいつまでたっても親ばかだなあ」

愛する息子の笑顔を想像し、にやける父。
その姿を見た呂ヶ白は呆れていた。

「…………」

「私もサダカくんと話をしたいし。
サダカくんはどんなものが好きなのかとか、色んな話を聞いてみたいなあ」

「お父さんには私が連絡しておくよ。だからおいで。きっと楽しいよ」

そう言って彼はサダカに手を差し伸べる。

「…………」

(数多の父さんは、いつも笑ってる)

(いつも優しい声で話しかけてくる)

(自分の父さんの笑った顔なんて一度も見たこと無い……)

(数多が羨ましい)

(あんな優しそうな父さんがいて。楽しそうで、温かそうで……)

「…………っ」

(なんか、泣きそうだ)

「俺っ……帰ります。怒られるから。さよならっ」

涙ぐんだところを見られたくないサダカは、顔を背けて走り去っていった。

「あれっ、サダカくーん」

 

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サダカと別れた後、家までの道をのんびりあるく数多家当主とその式。

「いやー……ふられちゃったね」

「おめえがいきなりすぎなんだよ」

「しかし……んー……」

「なんでい、どうした?」

「竜壬くんと今度、話でもしておいた方がいいかなあってね」

「なんでだ?」

「まあ、余計なお世話だろうけどねえ」

「だからなにがだ」

 

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「カケル、サダカくんとは仲良くやってるかい?」

部屋にいたカケルのそばに寄っていき、隣に座る父。

「……え? うん、仲いいよ」

「竜壬はね、いつも落ち着いてて凄い。
俺なんかが失敗する事でもあいつはちゃんとできて、なんでもうまくできるっ」

カケルは身振り手振りを加えて、父に思っている事を一生懸命伝える。

「そうかー。サダカくん、さすがだねえ。
でもカケルも頑張ればなんでも出来る子だからねぇ」

「そっかなー」

「でた、親ばか」

にこにこしている父を見て呆れる呂ヶ白。

「サダカくんと、ずっと仲良くしていってほしいなあって……お父さんは思うよ」

「うん、仲良くするよ」

力強くうなずくカケル。

「うん、カケルはいい子だなあ。撫でてあげようねー」

「へへっ」

頭をなでられたカケルは嬉しそうに笑う。

「まったく……ぽやーっとした親子だぜ」

そう言う呂ヶ白だが、声はとても優しい。

「サダカくんが悩んでいたら、力になってあげてね」

「うん」

(カケルは優しい子だ。でも、だからこそ苦しむ事もこの先あるかもしれない)

(でも、この子なら……きっと大丈夫)

(この子は、乗り越えられる子だ)

「俺、ずっと仲良くするから!」

 

 

おわり