※竜壬ノーマルエンドのラストの少し前の話です。
「涙の10分前」
「弓桐も思い出したいと思ってくれてるなら、 いくら忘れられたって、俺は待つよ。
また弓桐が俺を好きになってくれるのを」
それは、俺が彼女に言った言葉。
偽り無い本当の言葉だった。
あの時は。
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「なあ、奈敷」
「なによ」
俺に呼び出された奈敷は、機嫌が悪そうに俺を睨む。
「……俺が倒れた後、弓桐は何か言ってたか?」
「そんなの聞いてどうすんのよ。
アンタにはもう関係ないことでしょ」
彼女の顔がますます険しくなる。
「それともまた何か企んでるの?」
「ただ知りたいだけだよ」
「そうね、一つだけ教えてあげてもいいわよ」
「……」
「言葉じゃなくて、行動だけど」
「何があったんだ?」
「彼女、泣いていたわ」
「…………」
「それじゃ」
奈敷は素っ気無い態度で俺の前から立ち去った。
「……弓桐が泣いてた」
弓桐には俺を好きにならない術がかけられていた。
だからその涙はきっと、俺の為に流したものじゃない。
つまり彼女は、自身がつらくて泣いていた。
つらかったんだ。
俺が彼女につらい思いをさせていたんだ。
わけのわからない戦いに勝手に巻き込んで、ずっと無理をさせていた。
「……そっか」
―弓桐も思い出したいと思ってくれてるなら、 いくら忘れられたって、俺は待つよ。
また弓桐が俺を好きになってくれるのを―
昔俺が彼女に言った事。
でも、もう諦めた方がいいのかもしれない。
俺の勝手で彼女を振り回しただけだった。
昔も、今も。
再び全て忘れてしまった彼女に、
これ以上自分の理想を押し付けるのはやめよう。
俺のいない場所の方が、彼女はきっと幸せになれる。
忘れよう、俺も。
いつまでも女々しく引きずり続けるのはやめて。
大丈夫、この世界は叶わない願い事の方が多いのだから。
そう思った、それなのに――
どうして君は――
End